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歯科医師を悩ます新型コロナ感染リスク

【第5回】斎藤先生がこっそり教える 歯医者のホント~「歯科の駆け込み寺」~

■クラスター発生のリスク

 外出しなければならないこと自体もリスクだが、歯科診療は感染という点においては非常にリスクがともなうのだ。前回(2018年4月)の診療報酬改定で院内感染防止対策に関する施設基準が新設され、多くの歯科医院が院内感染対策に力を入れるようになった。だからといって、万全というわけではない。歯科診療そのものが危険だらけだからだ。

 新型コロナがもっとも感染しやすいパターンは飛沫によるもの。歯科診療では唾液や血液が飛び散りやすい。しかも、歯科医師側にとっては、患者の口の中を触らなければ治療ができず、自身への感染リスクはより高まる。そして、その歯科医師から別の患者にうつすリスクも考えなければならないのだ。

 当連載の第1回でも触れたが、斎藤歯科医師は大学院生時代、院内感染の恐怖を味わっている。

 「大学病院で週1回、患者さん1人に対してだけ、診察をやらしてもらっていたのですが、いつのまにかB型肝炎ウイルスに感染していたのです。もっとも、その事実を知ったのはあとから。予防ワクチンを打ってもらいに病院に行ったら、抗体ができていると言われた。知らぬ間にB型肝炎に感染し、知らぬ間に治っていた。もしキャリアのままだったら、無自覚の中で患者さんにうつしていた可能性もあるわけで、背筋が寒くなりました」

 診察する患者が少なくてもウイルスに感染するのだから、その人数が増えれば、リスクは何倍にも膨らんでいくことになる。その結果、歯科医師が感染すれば、患者にとってもリスクが倍増する。まさにクラスターである。何を言いたいかというと、患者の側も自重が求められるということだ。

 「我慢できる痛みなら、しばらく様子を見てからにしたほうがいいかもしれません。歯の症状がそんなに早く進行するケースは多くないのです。2~3ヵ月、診察を延期しても、それほど状況は変わりません。歯がグラグラして食事ができなかったり、ロキソニンなど市販の痛み止めを使っても痛みがひどい場合は、歯医者で診てもらうしかありませんが、非常時であることを忘れないようにしてください」

 ■正当な理由がなければ診療を拒否できない

 そうした中でもっとも危険にさらされているのは歯科医師である。手洗い、防護具(ディスポーザブル手袋、医療用マスク、プラスチックエプロン、ゴーグルほか)を身につける、器材の洗浄・消毒・滅菌など、院内感染防止対策を徹底するのは当然として、問題となるのは、新型コロナの感染が疑われる患者を受け入れるかどうかだ。

 それに関し、先日、東京地裁で興味深い判決が出た。エイズを引き起こすウイルスHIVの感染を理由に診療を拒否された男性患者が歯科医院を訴えていた裁判で3月5日、裁判所は「歯科治療を拒否するのは不法行為に当たる」として、医院側に損害賠償を命じたのだ。

 その根拠となるのは歯科医師法19条1項の「応招義務」だ。歯科医師は診察治療の求めがあった場合、正当な理由がなければ拒んではならないとなっているのだ。ここでいう正当な理由とは、歯科医師が不在だったり、病気などにより診療が不能な場合。もしくは、診療内容がその歯科医師の専門外だった場合だ。

 この法律が厳密に運用されるとなると、新型コロナの感染者であっても、歯科医院側は診療を拒否できないということになる。ただし、先のHIV感染の患者とは意味合いがかなり違う。というのは、HIVは感染力の低いウイルスだからだ。一方、新型コロナの感染力は強力である。

 4月6日に厚労省が出した前出の事務連絡文書には「新型コロナウイルス感染症の疑いがある場合については、速やかに『帰国者・接触者相談センター』にご相談いただくよう、患者に伝えること」とある。明確に診療を拒否していいとは書いていないのである。

 新型コロナ感染が強く疑われるにもかかわらず、歯の痛みが我慢できず、どうしても治療してほしいという患者が来た場合にどうすればいいのか。常識的に考えれば、「まずは新型コロナの診断を受けてからにしてください」というのが正解だろうが、そこでごねられたらどう対応すればいいか。

 「わかってもらえるまで、誠実に説得するしかない」というのが斎藤歯科医師の答え。歯科医師の悩みは尽きない。

KEYWORDS:

『歯医者のホントの話』 斎藤正人/田中幾太郎

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斎藤 正人

さいとう まさと

サイトウ歯科医院

院長

1953年東京都生まれ。神奈川歯科大学大学院卒。極力、歯を抜かずに残す治療を心がけ、「抜かない歯医者」を標榜する。一昨年9月『この歯医者がヤバい』(幻冬舎新書)を上梓。


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